被告と被告人の違いとは?ニュースの呼び方と法的な真相をプロが解説
法学の初歩にして、一般市民が最も勘違いしやすいのが「被告」と「被告人」の区別です。結論から整理すると、「被告」は民事訴訟で訴えられた当事者であり、「被告人」は刑事訴訟で罪を問われている当事者を指します。
民事裁判と刑事裁判の違いを理解すると、この2つの言葉の役割が鮮明になります。民事裁判は、お金の貸し借り、交通事故の損害賠償、不動産の明渡し、離婚請求など、市民同士の私人間のトラブルを法律に則って解決する手続きです。ここで訴えを提起した側を「原告」、訴えられた側を「被告」と呼びます。つまり、原告と被告の法律上の役割は私人間の利害対立における対等な当事者同士であり、どちらが犯罪者であるかといった善悪のジャッジを下す場ではありません。
一方の刑事裁判は、殺人、詐欺、窃盗、道路交通法違反など、社会の法秩序を乱した罪に対して国家が刑罰を科すか否かを判断する手続きです。起訴する権限(公訴権)を持つのは国家機関である検察官のみであり、その検察官によって「この犯罪を行ったのはこの人物である」として裁判所に起訴された立場が「被告人」です。
したがって、「被告=犯罪者」と短絡的に結びつけるのは法的に致命的な誤解です。たとえば、正当なビジネス上の契約解釈の相違や、過失割合を争う交通事故の損害賠償請求で裁判になった場合、誰もが日常的に「民事訴訟の被告」になり得ます。民事裁判の被告になったからといって、前科がつくわけでも警察に勾留されるわけでもありません。
また、刑事訴訟法における被告人の権利は非常に強力に保護されています。日本国憲法第37条および第38条を背景に、被告人には「黙秘権(自己に不利益な供述を強要されない権利)」「弁護人依頼権(私選または国選弁護人を付ける権利)」、そして裁判で確定判決が出るまでは無罪として扱われる「推定無罪の原則」が厳格に保障されています。国家権力という強大な存在に対抗するため、法律は被告人に対して手厚い防御権を与えているのです。