絵本『たべてあげる』はなぜ怖い?トラウマ結末と読み聞かせの賛否を検証
『たべてあげる』は単なる「好き嫌い撲滅のためのしつけ絵本」ではありません。作者のふかみはるひこ氏が描いたのは、「嫌なことをすべて他人に委ねた人間が、自らのアイデンティティ(存在理由)を失っていく恐怖」という、極めて哲学的で普遍的なテーマです。
嫌いな野菜を食べることも、面倒な片付けをすることも、人間が成長し、自分の輪郭を形成していくために必要なプロセスです。それを他人に肩代わりさせ続ければ、その人の経験や人間性は空っぽになり、代行した側が「本体」になっていくのは必然と言えます。
これは子どもだけでなく、大人の社会生活にもそのまま当てはまります。面倒な意思決定や責任を他人に預け続けているうちに、いつの間にか自分の居場所や人生の主導権を奪われてしまう――そうした現代社会の構造的な危うさを、子ども向けのシンプルな寓話へと見事に昇華させた点に、本作の真の文学的価値が宿っています。