『火垂るの墓』作者・野坂昭如が残した心の傷——戦争の惨禍と「妹への罪悪感」が織りなす真実の物語
『火垂るの墓』は1967年、小説新潮に掲載され、同年に第58回直木賞を受賞した。野坂はこの作品で、現実の自分とは異なる「妹を最後まで守ろうとした理想の兄・清太」を描いた。それは他者から見れば心温まる兄妹愛の物語に見えるかもしれない。だが、野坂自身にとっては、自分の浅ましさを隠し、空想の中で妹を看取るための救済の試みでもあった。
「清太は僕ではない。清太はもっと優しかった」。後年のインタビューで野坂はそう語っている。自分を偽る苦しみと、文章にせずにはいられない情念。文学という手段を使わなければ、彼は戦後の狂気から正気を保つことができなかったのかもしれない。ペンをとる文豪の姿には、あまりにも重い自戒が込められていた。