カルピス100年史の真相|内モンゴルの酸乳から初恋の味の誕生秘話
製品化にあたり、三島が徹底的にこだわったのがネーミングとプロモーションでした。「カルピス」という独特な名称は、骨の形成に欠かせない「カルシウム」と、サンスクリット語(古代インドの言葉)で仏教の五味(乳・酪・生酥・熟酥・醍醐)における最高の味の一つを意味する「サルピス(sarpis=熟酥)」を掛け合わせた造語です。
命名の過程では、最高位の味である「サルピル(醍醐)」を取り入れた「カルピル」という案も検討されました。しかし、音楽家の山田耕筰らに意見を求めたところ、「カルピスの方が舌ざわりがよく、音の響きが明るく軽快である」と助言を受け、最終的に「カルピス」に決定した経緯があります。仏教的な慈悲の精神と西洋科学の融合を名前に込めたのです。
さらにカルピスの知名度を全国区に押し上げたのが、1922年(大正11年)に登場した不朽のキャッチコピー「初恋の味」でした。発案者は三島の後輩で文学者・思想家の酈懸(てっけん)です。甘味と酸味が絶妙に調和した味わいを「初恋の切なさ・純真さ」に見立てたこのフレーズに対し、当時の社内幹部からは「神聖な商売に色恋を持ち込むとは何事か」「不真面目だ」と猛烈な反対が巻き起こりました。
しかし、三島は「初恋とは誰の心にもある純真で美しい感情であり、健康で爽やかなカルピスのイメージに合致する」と断断。新聞広告などで大々的に展開すると、大正モダニズムの風潮と相まって若者や文化人の間で爆発的な話題を呼びました。広告史に残るこのコピーは、単なる機能性訴求を超えて、カルピスを「情緒的な体験」へと昇華させる決定打となったのです。