M-1グランプリ2021徹底解説!錦鯉はなぜ勝てた?全順位と涙の舞台裏
大会最大のハイライトとなったのは、優勝決定のコールが響いた瞬間のスタジオの光景でした。司会の今田耕司から「第17代チャンピオンは錦鯉!」と告げられた瞬間、渡辺隆は隣で呆然とする長谷川雅紀を抱き寄せ、その頭を優しく叩きながら「ありがとう」と囁きました。
審査員席に目を向けると、普段は冷静沈着なサンドウィッチマン・富澤たけしが両手で涙を拭い、ダウンタウン・松本人志も目を潤ませながら言葉を詰まらせていました。なぜ、これほどまでに百戦錬磨の芸人たちが涙を流したのでしょうか。その真相には、単なる「遅咲きの苦労人」という枠組みを超えた、漫才の本質に対する敬意がありました。
長谷川雅紀は1971年生まれ。北海道から上京後、数々の挫折と解散を繰り返し、家賃すら払えない極貧生活を40代後半まで送っていました。奥歯を8本失い、信号機の明かりで髭を剃ったという壮絶なエピソードは、自著やインタビューでも語られています。一方の渡辺隆も、芸人を辞めて職に就くべきか葛藤し続けた暗黒期を経験していました。2人が2012年に「錦鯉」を結成したとき、長谷川は40歳、渡辺は33歳でした。
決勝の舞台で見せたネタは、知的な伏線回収や高度なメタ構造が全盛を迎えていた近代漫才への痛快なアンチテーゼでした。1本目の「合コン」では「こんにちはー!」という小学生のような挨拶から始まり、2本目の「猿の捕獲」では、50歳の白スーツの男が罠にかかって暴れ回るという、純度100%のナンセンスなドタバタ劇を繰り広げました。
松本人志は審査コメントで、自らの涙をごまかすようにこう語りました。
「最後の最後は、もう一番バカに入れようと決めていました。こんなにバカバカしいことをこの年齢で全力でやられたら、もう誰も勝てない」
緻密なロジックで武装した現代の漫才界において、錦鯉が見せたのは「肉体ひとつで人を笑わせる」という原始的で圧倒的なお笑いの原初体験でした。その純粋さに、お笑いに人生のすべてを捧げてきた審査員たちが心を揺さぶられた瞬間でした。