麻酔の後遺症はなぜ続く?しびれや吐き気の原因と放置厳禁の危険サイン
特定の麻酔手技において、特有のメカニズムで長引きやすい後遺症が存在します。その代表例が、無痛分娩や開腹手術で用いられる硬膜外麻酔後の頭痛と、歯科治療における下歯槽神経・舌神経の麻痺です。
起き上がると激痛が走る「硬膜穿刺後頭痛(PDPH)」
硬膜外麻酔や脊椎麻酔では、背骨の隙間から細い針を進めます。その際、脊髄を包んでいる硬膜に小さな穴が開き、そこから脳脊髄液が漏れ出すことで脳圧が低下し、激しい頭痛を引き起こすことがあります。これが硬膜穿刺後頭痛(PDPH)です。
最大の特徴は、「横になって寝ていると痛みが軽くなり、体を起こすと後頭部から首にかけて耐え難い拍動痛が走る」点にあります。通常は安静と十分な水分補給により数日から1週間程度で自然閉鎖しますが、症状が重度で生活に著しい支障が出る場合は、患者自身の静脈血を硬膜の外側に注入して漏れ口を塞ぐ「硬膜外自家血パッチ(ブラッドパッチ)」という処置を行うことで、劇的な改善が得られます。
歯科麻酔による神経麻痺が長期化する理由
親知らずの抜歯やインプラント手術時の伝達麻酔後に、「下唇や顎、舌の感覚が麻痺したまま戻らない」というトラブルは、下歯槽神経や舌神経の損傷によって引き起こされます。
神経損傷が治りにくい理由は、末梢神経の物理的な再生スピードにあります。神経線維は切断や変性を受けると、損傷部から末梢に向かって1日におよそ1ミリメートルという極めて緩やかな速度でしか再生しません。顎から唇にかけての距離を再構築するには数ヶ月から半年以上の歳月を要します。さらに、損傷の程度が強く神経管が完全に断裂している場合や、内部に瘢痕組織が形成されてしまうと、自然再生が阻害されて知覚鈍麻や触れると嫌な痛みが走る異痛症(アロディニア)が固定化してしまいます。