なぜ無効ではなく無権代理?民法108条「自己契約・双方代理」を徹底解説
民法108条の規定に違反して行われた自己契約や双方代理について、法律上どのような効力が発生するのかは、かつて解釈上の争点でした。改正前の民法では効力の規定が曖昧だったものの、判例実務は一貫して「無権代理行為」として扱ってきました。そして2020年の民法改正において、第1項本文に「その権限を有しない者がした行為(無権代理行為)とみなす」と明記されました。
ここで多くの人が疑問を抱くのが、「なぜ端から『無効』とせず、わざわざ『無権代理』にするのか」という点です。その決定的な理由は、本人の自己決定権と利益保護のバランスにあります。
もし法律上「絶対的無効」と規定してしまうと、仮に代理人が相場よりも極めて有利な好条件で自己契約を成立させていたとしても、契約は一切の効力を持ちません。しかし「無権代理」として構成されていれば、本人には追認権が与えられます。本人が取引内容を確認し、「自分にとって十分に有益だ」と判断して追認を行えば、契約は当初に遡って有効(追認の効力)となります。逆に、不利益な取引であれば追認を拒絶することで、一切の責任を回避できます。本人を保護しつつ、取引の柔軟性を損なわないための合理的な設計なのです。