首マッサージで死亡事故?脳梗塞を招く危険手技の真相と医学的盲点
「首を揉まれただけで死に至るわけがない」と考える人は少なくありません。しかし、脳神経外科や法医学の現場において、首のマッサージによる死亡事故は決して架空の出来事ではなく、明確な病理学的プロセスを経て発生しています。
その最大の原因が「椎骨動脈解離(ついこつどうみゃくかいり)」とそれに伴う脳梗塞です。首の後ろ側には、頸椎(首の骨)の細い骨の穴(横突孔)を縫うようにして脳幹や小脳へ血液を送り届ける「椎骨動脈」という極めて重要な血管が走っています。この血管は首を回旋させたり強く圧迫したりする力に非常に弱く、強い外力が加わることで血管の壁の内膜がペリペリと裂けてしまう現象が起こります。
血管の内膜が裂けると、その修復のために内部で血栓(血の塊)が急激に形成されます。その血栓が血流に乗って脳の深部へ飛んで血管を塞ぐと、致死的な小脳梗塞や脳幹梗塞を発症します。発症直後から激しい後頭部痛、めまい、嘔吐、意識障害が現れ、処置が遅れれば呼吸停止や心停止に至り、命を取り留めたとしても重い後遺症が残るリスクが極めて高いのです。
もう一つの重大な死亡要因は、首の前側にある「頸動脈洞反射(けいどうみゃくどうはんしゃ)」による急性の心停止・失神です。喉仏の左右斜め上あたりには、血圧を監視するセンサーである頸動脈洞が存在します。ここを強く指圧されたりマッサージ器具で圧迫されたりすると、脳が「血圧が急上昇した」と誤認し、心拍数を急激に落として血管を拡張させる指令を出します。その結果、急激な徐脈や血圧低下による失神、重篤な不整脈、最悪の場合は心停止を引き起こします。