藤原啓治の遺作と最後の演技|野原ひろし後任とFf7Rに刻む魂
藤原啓治という表現者を語る上で外せないのが、1992年の放送開始から24年間にわたって務めた国民的アニメ『クレヨンしんちゃん』の父親・野原ひろし役です。足が臭く、美女に弱く、だらしない一面がありながらも、家族の危機には自らを投げ打って守り抜く「日本一の父親」。藤原さんのナチュラルで泥臭い芝居は、野原ひろしを単なるギャグキャラから理想の父親像へと昇華させました。
しかし、2016年8月、突然の「病気療養に伴う休養」が発表されます。この時、藤原さんは自身が2006年に設立した声優事務所「AIR AGENCY」の代表取締役を務めており、経営者としての責務を果たしながら、過酷な闘病生活に入ることとなりました。公式発表における藤原啓治死因が「がん」であったことが明かされたのは没後のことですが、2016年時点で病魔はすでに深刻な影を落としていたと報じられています。
急遽、野原ひろし役の後任として白羽の矢が立ったのが、同年代のトップ声優であり盟友の森川智之さんでした。森川さんは当時を振り返るインタビューなどで、「引き受けることへのプレッシャーは尋常ではなかったが、啓治の戻ってくる場所を守るためなら何でもやるという覚悟だった」と吐露しています。森川さんは藤原さんの芝居のニュアンス、声のトーン、息遣いを徹底的に研究し、違和感を最小限に抑えながら代役を務め上げました。
2017年には体調を考慮しつつ一部の仕事への復帰がアナウンスされたものの、毎週のスタジオ収録という強大なエネルギーを要する『クレヨンしんちゃん』の現場に復帰することは叶いませんでした。藤原さんの逝去後、森川さんは正式な後任としてひろし役を背負い続け、「啓治が魂を吹き込んだひろしを、次の世代へと繋ぐ」という強い信念を持ってマイクに向かっています。