太田裕美「赤いハイヒール」歌詞の意味とは?名曲の真相と制作秘話
本作の歌詞解釈をめぐっては、インターネット上で長年囁かれているいくつかの俗説や誤解が存在する。その真偽を冷静に検証しておく必要がある。
代表的な誤解が、「この曲のヒロインは最終的に非業の死を遂げている」「風俗産業に身を落とした少女の歌である」といった極端な深読み説だ。確かにアンデルセン童話『赤い靴』は、踊り続ける足を木こりに切り落とされるという凄惨な結末を迎える童話であり、野口雨情作詞の童謡『赤い靴』も異人さんに連れ去られる切ない運命を描いている。そのため、松本隆の詞もそうしたグロテスクな悲劇を暗示しているのではないかと推測されがちだ。
しかし、松本隆本人が残した様々なエッセイやインタビューを紐解けば、そうした扇情的な意図がないことは明らかである。松本が描きたかったのは、「誰もが経験する青春期の変貌と、それに伴う無邪気な関係性の喪失」という日常的なリアリズムである。田舎から出てきた人間が都会の垢を落とし、洗練されていく過程は、成長であると同時に過去の自分を捨てる行為でもある。死や犯罪といった誇張された悲劇ではなく、「日常の中で静かに進む精神の断絶」こそが、松本文学の本質なのである。