夏目雅子の遺作『瀬戸内少年野球団』が放つ奇跡の名演と真価

今注目を集めている 夏目雅子の遺作『瀬戸内少年野球団』が放つ奇跡の名演と真価について、多角的な視点をご紹介しています。

『瀬戸内少年野球団』の魅力は、夏目雅子を支え、あるいは彼女と激しく情動を交錯させた豪華キャスト陣の競演にもあります。当時の日本映画界が総力を結集したキャスティングは、今振り返っても奇跡的な顔ぶれです。

まず特筆すべきは、駒子の夫・中井正夫を演じた郷ひろみの存在です。戦地で片足を失い、傷痍軍人となって絶望の淵から生還した元甲子園球児・正夫。トップアイドルとして絶頂期にあった郷ひろみが、戦争の残酷さを一身に背負った影のある夫を陰影深く好演し、夏目雅子演じる駒子との間で「戦後夫婦の再生」という重厚なドラマを紡ぎ出しました。

さらに映画ファンにとって見逃せないのが、本作が渡辺謙の映画デビュー作であるという事実です。正夫の弟で海軍上がりの鉄夫(山崎努)の仲間・門脇役として出演した若き日の渡辺謙は、粗削りながらもスクリーン越しに伝わる強烈な眼光と体躯で圧倒的な存在感を放ち、後の世界進出への萌芽を感じさせました。

加えて、網元の一族として島に君臨する波多野夫人を演じた岩下志麻の圧倒的な気品と凄み、警察署長役の伊丹十三、バーの女給役・ちあきなおみ、さらには大滝秀治や島田紳助といった多彩な役者陣が脇を固め、混沌と活気が混ざり合う昭和20年代の縮図を完璧に再現しています。そして何より、足良(バラケツ)役の山内圭哉をはじめとする少年たちの生き生きとした無垢な表情が、作品全体の生命力を力強く底上げしています。

関連記事