太田裕美『赤いハイヒール』歌詞の深層と誕生秘話!名曲に潜む哀愁の正体
本作を語る上で欠かせないのが、前作『木綿のハンカチーフ』との構造的な対比です。松本隆はこの2曲を通じて、高度経済成長期から安定成長期へ向かう日本社会の「上京と変化」を、まったく異なるアプローチで描き切りました。
『木綿のハンカチーフ』は、上京して都会に染まっていく男性と、故郷で変わらぬ愛を守ろうとする女性の「往復書簡(対話形式)」でした。そこでは、都会の誘惑によって心が離れていく切なさが、男女双方の視点から立体的に表現されています。
一方の『赤いハイヒール』は、「上京して変わってしまった女性自身」による一人称の独白です。田舎に残してきた男性に向けて、自らの変貌を言い訳することなく、どこか自嘲気味に、しかし抗えない現実として告白しています。『木綿』が都会と地方の距離を描いたのに対し、『赤いハイヒール』は「過去の自分」と「現在の自分」との間にある埋められない距離を描いており、より内省的でビターな余韻を残す構成になっています。