鬼才・山本直樹の現在と歴代傑作|森山塔の真相からレッドまで徹底検証
山本直樹という表現者を語る上で欠かせないのが、初期から続く「二重の顔」です。北海道福島町に生まれ、早稲田大学教育学部国語国文学科へ進学した青年は、在学中から漫画の執筆に没頭しました。大学卒業後の1984年、成人向け漫画誌にて「森山塔」名義で商業デビューを果たします。当時の成年コミック界はロリコンブームや劇画調の過渡期にありましたが、彼が持ち込んだのは、それらとは一線を画す「ドライな日常感覚」と「知的な構図」でした。
やがて青年誌への進出に伴い本名である「山本直樹」名義を使用し始めますが、ここで注目すべきは、ペンネームの使い分けが決して「単なる表向きの配慮」にとどまらなかった点です。当時のインタビューや後年の回想録で本人が明かしているように、森山塔名義では極端なタブー(近親相姦、異常性愛、倒錯)を躊躇なく描き込み、山本直樹名義では一見すると平穏な青春群像劇や日常の隙間に潜む空虚さを追求しました。
しかし、両者の根底に流れる視座は完全に一致しています。それは「人間の行動を善悪で裁かず、ただ起こった事実として淡々と見つめる」という徹底した観察者としての姿勢です。熱烈な愛好家の間では「森山塔の過激な肉体描写こそが山本直樹の骨格であり、山本直樹の静謐な間合いこそが森山塔の肉声である」と評されており、この表裏一体の表現形式が、唯一無二の作家性を形作る土台となりました。