樋口一葉旧居跡の現在とは?本郷菊坂や竜泉に残る文豪の面影を徹底解剖
一葉の人生を語るうえで、本郷菊坂と並んで欠かせない拠点が台東区竜泉(旧・下谷竜泉寺町)です。本郷での針仕事だけでは生活が立ち行かなくなった一葉は、一念発起して1893(明治26)年7月、吉原遊廓の北東に位置する竜泉寺町へ転居しました。
ここで彼女たちが営んだのが、近所の子どもたちを相手にした荒物・駄菓子屋でした。わずか9か月ほどの営業で店は畳むことになりますが、この竜泉寺町での暮らしが作家・樋口一葉の運命を決定づけます。吉原の遊郭に出入りする人々、社会の底辺でたくましく生きる下町の人情、そして吉原の郭町に生きる運命を背負った少女・美登利たちの無邪気さと哀歓。この地で五感を研ぎ澄まして見聞きした情景が、不朽の名作『たけくらべ』の直接の舞台背景となりました。
現在の竜泉旧居跡には記念碑が建てられているほか、すぐ近くには1961年に開館した台東区立一葉記念館が存在します。2006年にリニューアルされた同館は、女性単独の文学館としては日本初の施設であり、一葉の自筆原稿、日記、書簡、そして竜泉寺町の駄菓子屋の店先を再現したジオラマなど、一級の一次資料を間近に鑑賞できる貴重な学習拠点となっています。
そして、商売に見切りをつけて再び文京区へ戻った一葉が、最後の住処としたのが文京区西片一丁目(旧・丸山福山町)です。東京大学の正門からほど近い高台の麓に位置するこの地で、彼女は執筆活動に命を削り、1896(明治29)年11月23日、肺結核によりわずか24年の短い生涯を終えました。現在の終焉の地は閑静な高級住宅街となっており、緑豊かな敷地の前に「樋口一葉終焉の地」と刻まれた石碑がひっそりと佇み、夭折した天才の最期を今に伝えています。