美山荘の予約が取れない理由と宿泊料金|京都・花背の至高を徹底検証
美山荘を語る上で欠かすことができないのが、三代目・吉次氏が創始し、四代目・久人氏が深化させた「摘草料理(つみくさりょうり)」の存在です。京都の懐石料理といえば、利尻昆布と鰹節の出汁、中央市場から届く極上の魚介、磨き抜かれた京野菜を想像しがちですが、美山荘の厨房に届く主役は、その日の朝に宿の周囲の野山で採集された草花や山菜、渓谷を泳ぐ川魚たちです。
「摘草」という言葉から、精進料理のような素朴な菜食を連想する人がいるかもしれません。しかし、中東久人氏の手にかかる料理は、そうした牧歌的なイメージを鮮やかに裏切ります。裏山で手摘みされたフきのとう、タラの芽、コシアブラ、クレソン、野芹などの野草は、特有のエグみや苦味を巧みな灰汁抜きと温度管理によって「力強い野生の香り」へと昇華されます。そこに、敷地内の生簀で泳ぎ、直前まで生きていた清流の鮎や岩魚の炭火焼き、あるいは冬場に近隣の猟師から届く鹿、猪、月の輪熊の滋味深い肉が組み合わされ、唯一無二のコースが立ち現れます。
特筆すべきは、久人氏が若き日にフランスで培ったエスプリと、日本の伝統美意識の結晶である「野趣と洗練」の同居です。素材が生まれ育った環境をそのまま皿の上に再現するかのような盛り付けは、作為を感じさせず、息を呑むほど美しい陰影を宿しています。器の選択から部屋に生けられる名もなき野の花に至るまで、花背の大自然が凝縮された世界観こそが、訪れる者の心を揺さぶる決定的な理由です。